線路は続くよどこまでも
仕事を辞めてから数ヶ月、私はニート生活を満喫していました。

毎日食っちゃ寝、眠たくなったら昼間でも寝て、夜更かしだってし放題、だんだん曜日の感覚も時間の感覚も無くなってきて、まるでこの世の春……。

いやいや、このままじゃダメだ。せっかく自由な時間ができたんだから、もっと有効に使わないと! ついでに両親も最近怒り気味で「そんなに暇なら出家でもしろ!」とか言われる始末。

というわけで、ふと思い立ち旅に出ることにしました。

しかし、不安定な無職の身の上、そうそう気軽にお金をかけるわけにもいかない……。

そうだ、久々にアレを使おう。
というわけで、近所の駅で青春18きっぷを購入しました。

■青春18きっぷとは
使用期間内で任意の5日、JR在来線が乗り放題になる切符です。

始発から終電まで、好きなだけ電車に乗っていい! 途中の駅で何度乗り降りしても、日付が変わるまでは1回分でOK!ただし、有料特急や新幹線、連結する三セク鉄道や私鉄は別料金なので注意が必要です。

発行時期によって値段は多少変わるようで、私が買った時は11,850円でした。過去は11,000円前後だった気がするので、若干値上がりしたような気もします。

「青春18きっぷ」と言うだけあって、学生の長期休暇の時期(8-9月、12-1月、2-3月)に合わせて発売されることが多いですが、販売時の年齢確認とかは無いので、私のようにとっくに青春を過ぎた人間でも買えます。還暦過ぎの18きっぱーもいっぱいいますね。
ご購入はJRみどりの窓口へどうぞ。

旅の目的地ですが、サイクリストの聖地と呼ばれる「しまなみ海道」を目指すことにしました。

ロードバイクに乗り始めてからまだ2ヶ月くらい、ロングライドの経験も無いですが、まあ行けばなんとかなるでしょう……思い立ったが吉日って言いますし……。

そういうわけで、8月某日の始発電車に乗り、岐阜県某所から広島県尾道市へと旅立ちました。
岐阜から尾道までは、在来線で大体9時間強、ちょうど1日で到着できる、我ながら完璧な計画じゃないか。この時はそう思っていたのですが……。

線路は続かない

朝5時の始発電車に乗り、まずは南を目指します。

早起きしすぎて眠気がすごい、まあ電車に乗ってるだけだし、道中で眠ればいいか……そんなことを考えながら、ガラガラの座席に座り目を閉じてウトウトしていると、車掌さんが検札に回ってきました。

車掌さん「切符を拝見します」
私「はい(18きっぷを差し出す)」
車掌さん「(急に暗い顔になって)……本日はどちらまで?」
私「尾道まで行くつもりなんですが」
車掌さん「すみません、この電車、今日は途中で折り返しなんですよ」

なんと、天候不順で途中区間の運転を見合わせているとのこと。
……そういやここ数日メチャクチャ天気悪かったですね……。

私「どこで折り返しですか?」
車掌さん「途中の○○駅までですね。そこから先は、××駅から運行しています」

詳しい路線名・駅名は省きますが、ざっとご紹介すると↓
○○駅------約50km運転見合わせ------××駅---(中略)---尾道
↑こんな感じです。ちなみにクソ田舎ですから、電車以外の交通手段はほぼありませんよ。

電車が使えないとなると、この先どうすりゃいいのでしょうか。タクシー乗ろうかしら、でもお支払いがとんでもないことになりそうな……。

そこでふと思いつきました。
「自転車があるじゃん」

しまなみ海道へ行ったら、80kmは走らなきゃいけないんです。それを思えば50kmくらいなんてことない、むしろウォームアップになってちょうどいいかも。

親切な車掌さんは「引き返されるなら、18きっぷには押印せずにおきますが……」と言って下さいましたが、私は悠然とそれを断り、○○駅で電車を下りました。が、この考えが安易だったのです。

下手な考え休むに似たり
○○駅で電車から降り、輪行バッグから自転車を取り出し組み立てます。たしかにサイクリングツアーのつもりでしたが、まさかこんなに早く自転車に乗ることになるとは思いませんでした。まだ家を出てから1時間ちょいしか経っていないのに。

そして駅から漕ぎだして10分、私はすぐ後悔に襲われました。

まず、天気が非常に悪い。幸いその時雨は降っていませんでしたが、黒く厚い雲が天を覆っていて、いつ土砂降りになってもおかしくはない空模様。そもそも電車が運転を見合わせるくらいの天候なのだから、推して知るべしだったのですが……。

明け方は大雨だったのでしょう、路面は水浸しです。泥が跳ね、車体もジーパンもドロドロ。側溝のフタや、橋のつなぎ目が雨に濡れてツルツル滑り、神経を削られていきます。

山から吹き降ろす風も強い。路肩を走っていると風に煽られて足元がふらつく。早朝だったお陰か交通量は少なかったのですが、それでも大型車に追い抜かれる時には「風にあおられて轢死しやしないか」と心臓がバクバクしました。

そしてなにより、身体がキツい。
普段は近所をサイクリングする程度でしたから、走ってもせいぜい1日30km弱。それもスローペースで平地ばかり。ところが○○駅-××駅の間は、大小様々なアップダウンが続く山道です。どうしよう、登り坂なんて全然走ったことない……こんなに疲れるなんて……。

長旅の荷物を詰め込みまくったリュックは重量約8kg、前傾姿勢で自転車を漕いでいると、背中と腰を容赦なく痛めつけてきます。

30分ほど走り、路肩に倒れこむようにして休息を取り、20分ほど走り、また休み、そして15分ほど走り……の繰り返しで、そのうちに休憩時間のほうが長くなる始末。

今日中に尾道へ着くには、最終××駅を14時に発てばいい。今の時刻は7時過ぎ、時間的には十分余裕があるのですが、「そもそも××駅まで体力がもつのか?」という不安が頭をよぎります。

しかしもう行くしかないのです。

そう決意を固めたものの、いかんせん身体がついてきません。膝が軋んで脚が回らない。ふくらはぎと太ももも、少しずつ痺れて動かなくなっていきます。

息せき切って、やっとのことで××駅まであと10kmの地点まで到着。休憩がてら、道沿いにあった駅舎を覗いてみると、電車はとっくに運行を再開していたのでした……。
私は悔しくなって駅を飛び出し、××駅まで自転車を漕ぎ続けました……。

はじめての輪行
ペダルを漕ぐこと3時間ちょっと、ようやく××駅へ到着しました。
まだ旅は始まったばかりだというのに、もう身体はボロボロ、シャツはベタベタ、自転車はドロドロで、まるでロングライドを終えたような雰囲気です。

再び電車に乗るべく、自転車を輪行バッグに仕舞います。駅前で自転車を構っていると、なんだか人目を感じてドキドキしますね。

自転車を駅構内や電車内に持ち込む時は、ある程度分解してから専用のバッグに入れて運ぶのがルールです。スポーツ自転車だと、レバーを回すだけで簡単に車輪が外し分解できるようになっています。

分解した自転車は、専用のバッグに収納。バッグには、前後輪を外して収納するタイプのもの、前輪だけを外して収納するタイプのものがあります。

私の使っている輪行バッグは、前後輪を外して収納するタイプ。実際に使うのは、この日が初めてです。思ったよりもコンパクトに収まるけど、それでも大きさは畳半畳程度、重量は軽く10kg超とかなりの大荷物。
肩から提げて持ち歩くのですが、肩紐が食い込んで痛い痛い……。

・写真中央の青いのが自転車を収納した輪行バッグ
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自転車を担いで改札をくぐり、電車に乗り込みます。

さて、輪行の時は、他にも守らなければいけないルールやマナーがあります。

まず、自転車の車体はすべてバッグの中に収めること。
サドルやハンドル、フォークやフレームの一部がバッグからはみ出していると、基本的に持ち込みはNGだそうです。
古いタイプの輪行バッグだと、わざとサドルを外に出して持ち手代わりにする仕様のものもあるそうですが、最近ルールが改まって、そういうタイプのバッグは使っちゃいけなくなったそうです。

次に、輪行時の安全に十分配慮すること。
自転車は合金製だったりカーボン製だったりしますが、固いパーツや尖ったパーツがたくさんあり、もう「凶器」と言っても差し支えありません。もし電車に乗ってる途中で自転車が倒れたり、人にぶつかったりしたら、大怪我をさせてしまうことだって考えられます。
自転車を電車内に持ち込む際は、紐で手すりなどにしっかり固定し、輪行中は車体から常に目を離さないようにしなければなりません。

あと、他の乗客の方の迷惑にならないこと。
自転車は大荷物、他の人からしたらすごく邪魔です。輪行する際は、乗り降りの少ない最前か最後尾の車両、運転席の側に乗るのがマナーだそう。まかり間違っても、狭い通路に自転車を置くようなことはしてはなりません。
また、車内が混み合っている場合はムリに乗車せず、次発以降の電車を待つことも必要です。

始発の駅、クソ田舎の路線では、私以外の乗客はほとんどいなかったからあまり気になりませんでしたが、やや田舎の××駅からは人も増えてきて、注意が必要です。

電車の車内には、そこかしこにデカい輪行バッグを抱えた乗客が……大学生でしょうか、多分どいつもこいつも18きっぱーですね……。

皆車両の端っこに自転車を括っていて、空いたスペースが無い……なんとかデッキ近くに自転車を固定し、ようやく旅の始まりました。


西へ西へ
JR東海道線に乗り、ひたすら西へ西へ……と、電車に乗ってるだけなら楽なんですが、東海道線から京都線に入るまでの区間で、何度か乗り換えをしなくてはいけません。
しかもこの区間、どこもかしこも乗り換え時間が非常にタイトなのです……。
(参考:大垣ダッシュ)。
東海と関西の境界、米原駅に着くと、関西方面行きの電車は既にホームで待機中でした。今後のスケジュールを考えればこれに乗るのが一番なんですが、いかんせん自転車を置く場所が見つかりそうにない……幸い時間だけはたっぷりありますし、この電車は見送って、余裕を持って次発に乗ることに。
その間に、お昼ごはん! 朝からなにも食べてない上に走りまくったからお腹ペコペコです!

・近江牛大入飯
電車旅だから、やっぱり駅弁ですね!

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カレー風味のご飯の上に、甘口に煮た牛肉の切り落とし。全部地元滋賀県産の食材らしい。おいしい!

ご飯を食べ、人気の少ないホームのベンチで一休み。1時間もしないうちに、次の電車が到着しました。
私個人の感想ですが、輪行は場所取りが一番重要だと思います。とにかく車両の隅っこ、邪魔にならない場所を確保すること。
最前列/最後列の車両、運転席のそばには必ず手すりがあって、鉄道会社側も輪行時は手すりの利用を推奨しているそうです。運転席越しに進行方向の景色も見えたりしてお得ですよ。

米原を出てからも、何度か乗り換えが続きます。
普段乗らない路線だと、どの電車に乗ってどこで乗り換えたらいいのかさっぱり分からないから不安……学生時代、同じ路線であらぬ場所へ連れて行かれたことを思い出し身が震えます。
同じホームに到着する電車でも、琵琶湖線や京都線、神戸線など複数の路線に乗り入れていて、それぞれ停車駅や終点が違ったりするのも怖ろしいです。

とまれ電車を乗り継ぎ、滋賀を抜け京都、京都を抜け大阪、大阪を抜け兵庫、兵庫を抜け岡山と走り続けます。
ちなみに、兵庫と岡山は永遠に続くんじゃないかっていうくらい長いです。東海道本線で言う静岡県ポジションですね。
ずっと自転車に付き添って立ちっぱなしなので、疲れきった脚がますますパンパンに……。

しまなみ海道の入り口へ
日が暮れかけた18時頃、ようやく尾道駅へ到着しました。
尾道駅から望む千光寺山と、駅のすぐそばに臨む瀬戸内海の島々、何度見ても最高の景色です。

・尾道駅と千光寺山、尾道城

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・向島ドック
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まずは駅で自転車を組み立てます。さすがサイクリストの聖地・しまなみ海道の端点なだけあって、駅にはこんな設備がありました。

・自転車組み立て場
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もうクタクタ、ということで、すぐに予約したホテルにチェックイン。
今晩泊まるのは、FUJI HOSTELというドミトリーです。

・一見民家かと思ってしまいましたが立派なドミトリー
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HUJI HOSTELさんには、私のようにしまなみ海道を走りに来た自転車乗りがたくさん泊まられるようで、自転車関連の設備が非常に充実していますし、ローディー同士の交流もある素敵な宿です。

宿に荷物を置いて、夕食へ向かいます。オーナーさんは大変親切な方で、近所の美味しいお店を何軒か教えてくれました。もう疲れきっていたので、教えられた通り朱華園へ。

・朱華園
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朱華園は尾道ラーメン専門店です。
店構えはちょっと高めの中華料理屋っぽいんですが、メニューはラーメン、餃子、ライス、ビール、以上と非常にシンプル。
尾道ラーメン、醤油ベースの澄んだスープに、大きめの豚背脂ミンチが浮かんでるのが特徴ですが、定義や調理法はハッキリ定まっていないらしく、店によって結構差があります。以前にも別のお店で食べたことがあるのですが、とても優しくて懐かしい味、ご当地ラーメンの中では金メダルを上げたくなるくらい美味しいですよ。
気づいたら器がカラになってて、写真を撮る間もありませんでしたね……。

その後は、お好み焼き屋のぐちへ行きました。

「ラーメンだけで止めておこうかな……」とも思ったのですが、宿のオーナーさんから「『のぐち』は金土日しか営業していないんだよ」と教えて頂き、それならもう今日行くしかないと決意。
明日はガッツリ運動するから、エネルギーを多めに摂取しておいたほうがいいでしょうしね……。

のぐちのお好み焼きは、薄く広げた生地の上に焼きそばを乗せ、更にその上にキャベツ、具を乗せて卵を落とし、ひっくり返して焼いたもの。具は牛スジ、揚げイカ(駄菓子っぽいやつです)、砂ズリの3種。焼きあがったものに刷毛でソースを塗って、そこに青海苔やかつお節、出汁粉をかけて頂きます。
ビールに大変マッチして、非常に美味しいです。気づいた時には、鉄板の上からお好み焼きが消えていました。

帰りの道すがら、大宮湯という銭湯に寄って湯船で身体をほぐしました。

・大宮湯
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思いがけずハードな一日になりましたが、本番は明日からですからね……しっかり疲れをとっておかないと……。

ホテルに戻るとすぐ就寝。
明日はいよいよしまなみ海道です!

<続く>